以前どこかで「カレーという料理は、香辛料の風味を移した油脂を味わうものだ」みたいな言説を目にしたことがあります。誰の意見だったのかは忘れました。
分かるような分からないような……当時は「そんなものだろうな」と思いつつも、具体的にイメージすることはできなかったのですが。
今回訪れたのは「ヨダレカレー」。まさに「香辛料の風味を移した油脂」の具体例のようなカレーに出合いました。
熊本市南区の田井島。国道57号(東バイパス)と、県道104号(旧浜線バイパス)の交差点に建つ、ビルの1階にあります。
開店は正午。10分ほど早めに自転車で乗り付けたところ、ドアの前に5人並んでいました。
明るい店内は、カウンター5席、4人掛けのテーブル3卓。来店者が貼り付けていったらしい、フライヤーや名刺、サインなどが、壁面をにぎやかに飾っています。
多彩な相がけから メニュー1種へ…
卓上のメニューによると、カレーは「丸鶏のチキンカレー」のみ。「マイルド」「辛口」を選べるほか、ご飯を大盛りにすることができます。
辛口の普通盛りを注文しました。
しばし待って、個別に盛られたカレーとご飯が到着。カレーは焦茶色のペースト状で、半透明の油脂が厚く覆っています。その中には、大きさ5~11cmの鶏肉が6切れ。散らされているトッピングは、タマネギとショウガです。
味わい豊かなチキンカレーです。多量の油脂に、スパイスのさまざまな風味が溶け込んでおり、それがひと口目から分かります。口当たりが軽いので、オイリーさは気になりません。「辛口」ではあるものの、何かの刺激が突出しているのではなく、全体のバランスを保ちつつ刺激が底上げされている印象。チキンの深い旨味や、絶妙な塩味も手伝って、ご飯がおいしく食べられます。ちなみにご飯は、バスマティ米とジャポニカ米のブレンドとのこと。
鶏肉は、骨付きのブツ切りです。手羽や脚、胸など、さまざまな部位が集まっており、それぞれ肉質が異なっていたりして味わい深い。決して骨離れが良いわけではないので、よりおいしい骨回りの肉を楽しむには、手づかみでしゃぶるように食べましょう。
この店は、かつては多彩なカレーの相がけで知られていたのですが、やがて1種類のカレーで勝負するように。……蕎麦屋に例えるなら、天麩羅や南蛮などの種物に凝っていた店が、せいろのみの方針に変わったようなものでしょうか。
そのあたりに、道を究めんとする“求道者”の気配がうかがえます。