ハウスのヒット商品「バーモントカレー」に代表されるように、カレーの隠し味として知られる“名脇役”がリンゴ。すりおろして混ぜ込むと、カレーに適度な甘味と酸味が加わって、とても味わい深くなります。
ところが、そのリンゴを“主役”に抜擢したカレーがあるという、奇妙なウワサが耳に入ってきたのです。あたかも渥美清亡きあとの寅さん役に佐藤蛾次郎を抜擢するような、無謀極まることなのでは…そんな不安を胸に、私は車を走らせました。
目指す「林檎の樹」は、阿蘇郡南小国町の町役場の近くにある、観光リンゴ農園「共楽園」に併設された喫茶店。土蔵を改築した建物で、民芸調やエスニック風の家具・調度が凝っています。
ゴロゴロと十数個も
リンゴを使った洋菓子類がメニューの中心。カレーは「りんごカレー」と「烏骨鶏カレー」しかありませんが、たった2種類なのにこの懲りよう。両方とも注文したことは言うまでもありません。
明るめの色をしたカレーの中に、ひと口サイズに切られたリンゴがゴロゴロと十数個。その他に、具らしきものは見当たりません。瓜か何かの漬け物が付いていました。
カレーは中辛程度で粘度が高く、市販のルーに似た無難な味。タマネギのかけらや肉の切れ端などがわずかに見つかるので、リンゴ以外の具は煮溶けているのでしょう。リンゴを食べてみると、かすかな酸味がアクセントとなり、カレーの味を引き立てています。あまり火を通していないのか、噛むとシャリシャリとした歯ごたえ。私には新鮮な食感でした。
リンゴは立派にカレーの主役を務めていました。家庭で作っても成功しそう。食べ残したリンゴを赤く変色させるよりは、乱切りにしてカレーの中に入れてしまうべきです。テーブルに置いてある落書き帳には、「りんごカレー、おいしかったです」などという来店者の感想が多く、人気の高さがうかがえました。
もうひとつの烏骨鶏カレーの方は、やや辛口で、鶏のエキスが溶け込んだ濃厚な味わい。りんごカレーとは趣が異なっていますが、こちらもおいしいカレーでした。