穴場的な名店って、近ごろ少なくなっているような気がします。
おそらくは、インターネットの普及が原因。さまざまな情報を続々ともたらしてくれる一方で、モノゴトから“意外性”みたいなものを奪っているのかも知れません。
今回訪れたのは「キッチン SUWA」。昔懐かしい“穴場感”を漂わせた店でした。
福岡県久留米市の南部、諏訪野町。店舗がにぎやかに建ち並ぶ、国道3号沿いの路面店です。なのに、何とも地味な店構え。注意していないと見過ごしてしまいそう。
スパイシーで上品なマトンの佃煮…
店内はカウンター13席、4人掛けのテーブル5卓。窓が少ないせいか、何となく薄暗い。所どころにインドっぽい人形や布地などがアレンジされてはいるのですが、飾り付けが中途半端で、妙にガランとして感じられます。
写真入りのメニューには、カシミールカリーやマトンマサラカリー、サグカリーなど、なかなかに本格的なラインナップ。と思いながら見ていくと、カツカレーやナポリタンスパゲティ、カツ丼など、庶民的な料理も並んでいます。
直感的に「バダムカリー」を注文してみました。メニューにあった「インドの肉カレーです」という説明に引かれたのです。
このバダムカリー、大川市の名店「タージ」でも食べられます。ここから距離的に遠くないので、何か関係があるのかも知れません。
給仕の女性に「少々お時間いただきますが」と言われ、待つこと十数分でカレーが到着しました。シンプルというかワイルドなビジュアル。白ご飯にトッピングされたフライドオニオンが、唯一の“飾り気”です。
ここまでネガティブ気味に書いてきましたが、実においしいマトンカレーです。
軟らかく煮込まれたマトンは、ホロホロと繊維状に崩れており、油脂がたっぷりと絡んでいます。その油脂にはスパイスの甘い風味が溶け込み、マトン特有の旨味や滋味を引き立てています。刺激は控えめながら、肉のクセがスパイスによって巧みに抑え込まれている印象。見るからにギットリとしていますし、実際に濃厚ではあるけれど、不思議と口当たりはおだやか。重さやクドさは皆無でした。
スパイシーで上品なマトンの佃煮…そんなカンジでしょうか。佃煮っぽいからか、ご飯が進みます。もうひと皿、ご飯が欲しかった。
食べる前までの気持ちと、食べた後での気持ち…両者のギャップが大きければ、そこに感動が生まれます。食べ歩きをしていて、たまにしか出合えない幸運です。
おいしくて、ちょっと感動した、久留米でのひと時でした。