「カレーの穴」は1999年夏に大幅リニューアルを敢行。それまでは無為無策にして無謀な、カレーを冒涜するようなバカ企画を次々と展開していたのですが、アクセス増加を受けて「これからは広く一般に読まれる内容にしよう」と思い、企画の一部を封印しました。
タイトルの「ウエディングカレー」とは、私が自らの結婚披露パーティーでカットしたカレー製のケーキ。挙式後に正気づいて「酔狂を通り越して非道の行為だった」と深く反省、削除したネタです。
ところが、どこで何を聞いたのか、あれから2年経ったのに「ウエディングカレーって何?」「すごいカレーを結婚式でカットしたそうで…」と言ってくる人が。『九州ゼクシィ』というブライダル誌で紹介された影響もあったようです。
噂に尾ひれが付いて「天竺堂の結婚式にはカレーしかなかった」「参列者は恐ろしいカレーを無理矢理食わされた」などとホラーな話にまで発展してしまいました。
こうなったら仕方がない。ウエディングカレーの封印を解かねばなりません。当時の写真と全文を、以下に掲載します。
暴挙!? 来賓の面前でカレーに入刀
私事で恐縮ですが、98年5月23日に結婚しました。29年4カ月の独身生活が終わり、他人との果てしなき共同生活が始まったわけです。
カミさんは私に勝るとも劣らない料理好きで、カレー者の気持ちを理解してくれる希有な女性ではありますが、結婚することで私の“カレー人生”にどのような影響がもたらされるのか、神ならぬ身に分かるはずもありません。そこで、私は結婚に際して「この機会をカレー人生のひとつの頂点にしよう」と考え、長らく温めていた構想を実行に移すことにしました。結婚披露パーティーの席上、ウエディング・ケーキに続いてカレーをカットするという、バカバカしくも感動的な計画です。
しかし、パーティー会場となった熊本市上通のレストラン「シャンカールG」のスタッフは、当然のことながらメインの料理に忙しく、そんな訳の分からない代物に手間を割く余裕など無いとのこと。一方、発案した私自身も、当日は主役なので身動きが取れず(当たり前か)、厨房に立つ暇はありません。
途方に暮れていたところ、当サイトでもおなじみのウェブラジオ局主宰のParaTさんから協力の手が。私の代わりにカレーを作り、会場に運び込んで下さることになりました。ParaTさんはトークばかりか料理も上手で、NHK「きょうの料理 男の食彩」に出演して「こんにゃくカレー」を作った経験がある(実話です)ほどの人物。願ってもありません。
結婚式に先立つ16日、オフ会を兼ねてウエディングカレーを試作。試食の評判は上々で、あとは“本番”を待つばかりとなりました。
材料分量(直径21センチ) 米…3合。モチ米…1合。合い挽き肉…400グラム。タマネギ…2個。ニンジン…1本。ナス…1本。ピーマン…1個。ニンニクとショウガ…少々。カレー粉…適量。ガラムマサラ…適量。固形ブイヨン…1個。油…適量。固形カレールー…3片。ラッキョウ…10個程度。マッシュポテト…適量。
作り方
1.米とモチ米を混ぜて固めに炊き、冷ましておく
2.ドライカレーを作る(A.タマネギとニンジン、ピーマンをみじんに、ナスを賽の目に切る B.フライパンに油を入れ、すりおろしたニンニクとショウガを炒めて香りを出す C.Bにタマネギを入れ、弱火で飴色になるまで炒める D.Cにニンジンとピーマン、ナス、合い挽き肉、カレー粉を入れ、肉がソボロ状になる まで炒める E.固形ブイヨンを湯で溶き、Dに入れる F.水分を飛ばしてペースト状にし、ガラムマサラを混ぜ込む)
3.ケーキ型の内側にラップを敷き詰めて、ご飯とドライカレーを交互に重ね、押し固める
4.固形カレールーを少量の湯で固めに溶く
5.③をケーキ型から抜き、表面全体にパレット・ナイフなどで4を塗る
6.ラッキョウとマッシュポテトを飾る
当日は、昼間に料亭でお堅い披露宴を行い、友人や同僚らを呼んだカジュアルな立食パーティーを夕方から開きました。早朝から支度に追われ、数々の婚姻儀式を緊張の中でこなしてきた私とカミさんは、パーティーが始まる頃にはグロッキー状態。予想を上回る約100人の出席者でごった返していた会場で、自分がどのような言動を行ったのか、あまり記憶がありません。
それでも、ウエディングカレーを切った時の光景は鮮明に思い出せます。ハートマークを施されたカレーケーキは、可愛らしくもスパイスの香りをプンプン漂わせて存在感を主張。拍手とフラッシュの中で、銀のナイフをカミさんと入れた瞬間は、確かに私のカレー人生の頂点だったと言えるでしょう。
この酔狂な余興に付き合わされた人々の反応は、面白がったり苦笑したり眉をひそめたり無視したりとさまざま。「食べるひとはほとんどいないだろう」と小さめに作ったカレーケーキは、パーティーが終わる頃にはきれいに無くなっていました。家に持ち帰って食べた人もいたそうです。
裏方として尽力していただいたParaTさんはじめスタッフの方々には、ただただ感謝するばかり。ご厚意に報い、そして今後の「カレー人生」で新たな頂点を迎えられるよう、カミさんと面白おかしく生きていきたいと思います。